May 11, 2020

GSEA解析 (結果と解釈)

前の記事で紹介した通り、計算後にSuccessと表示される部分をクリックすると、ブラウザを使って解析結果を見ることができる。

GSEAの結果の一部 (下部に続きがある)

GSEAのパラメータ

GSEAの結果で注目すべき結果は、主に二つある。Normalized Enrichment Score (NES)とFalse Discovery Rate (FDR)である。

Enrichment Score

NESは正規化したESであるので、ESについて説明する。ESは、遺伝子を発現変動順にリストにして並べた時に(例えば、WTで高発現→MTで高発現)、ある遺伝子セットがそのリストの上位または下位で発現している度合いを示す。
ESの計算方法は、発現変動順に並べられたリストを辿り、関連する遺伝子があったら発現変動の大きさに応じて加算し、関連遺伝子がなければ減算する、というものである。そうして得られた曲線(下図の黄緑色のグラフ)の絶対値が最大となるピークが、その遺伝子セットにおけるESである。ESが正の値の場合は、遺伝子セットがリストの上位で濃縮していることを示す。負の値の場合は、リスト下位にて濃縮していることを示す。
NESは、それぞれの遺伝子セットのESを、すべてのESの平均値で割ったものである。NESが高いほど、その遺伝子セットが発現変動により関連していることを意味する。

GSEAの結果例(CK1 pathwayの場合)とES

False Discovery Rate (FDR)

偽発見率(FDR)は、特定のNESを持つ遺伝子セットが偽陽性を表す推定確率である。例えば、25%のFDRは、妥当な結果が4回中3回出る可能性が高いことを示す。GSEA分析結果では、FDRが25%未満である遺伝子セットを、興味深い仮説を産み出し更なる研究を推進するものとして強調する(が、分析した全ての結果が表示される)。
公式では、FDRの値は25%で足切りすることが推奨されている。しかし、サンプル数が少なく、分析の際にpermutationをphenotypeではなくgene_setを選んでいる際は、5%などのより厳密なFDRを採用する必要がある。
一般的にNESの絶対値が大きいほどFDRは小さくなる、つまりNESの絶対値が小さいほどFDRは増加する。しかし、分布曲線は裾がジグザグになる傾向があるため、GSEAの結果でこれに例外がみられる場合がある。


GSEAの結果表示

GSEAの主要な結果は、Enrichment in phenotypeで見ることができる。この結果は、それぞれのphenotype (例えばWTとMUT)ごとに分かれて表示される。
サンプル例として用意されているp53のデータを使った解析で、遺伝子セットをH、C1~C7の全てを選択した場合の結果は以下の通りになる(冒頭の図と同一)。

サンプル例のp53に関するデータを用いて解析した結果

このWTの結果に注目すると、以下の項目が得られていることが分かる。
  • この表現型(WT)で濃縮されている遺伝子セットの数と、解析した遺伝子セットの総数
  • FDRが25%未満であった遺伝子セットの数
  • p値が1%未満、および5%未満であった遺伝子セットの数
    (このp値は遺伝子セットの数や多重仮説が加味されていないため、遺伝子セットを比較するために用いる価値は限定的とされている)
  • NES上位20の遺伝子セットの結果のスナップショット
  • 詳細な結果(htmlまたはexcel)
  • 結果の解釈に関するガイド
このスナップショットをクリックすると、以下の様にESの主要な解析結果を一目で確認することができる。

「スナップショット」の画面

この一覧から、気になる結果をクリックすると、個別の結果に飛ぶことができる。
例えば、左上はp53関連の遺伝子セット(P53_DN.V1_DN)の結果である。クリックすると、遺伝子セットの名前/ES/NESの値/FDRの値などの表、ESのグラフ、個々の遺伝子やヒートマップなどを見ることができる。

個別の結果の例

この遺伝子セット(P53_DN.V1_DN)の詳細を知りたい場合は、結果のトップページに戻り、Detailed enrichment results in html formatに飛ぶことによって、個々の遺伝子セットに関するMSigDBのページを訪れることができる。そのページでは、例えばP53_DN.V1_DNがC6: oncogenic signaturesに属する遺伝子セットであることや、遺伝子セットの中身(193の遺伝子)を見ることができる。

遺伝子セット、P53_DN.V1_DNの説明ページ@MSigDB

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